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胃・十二指腸潰瘍と胃がん

当院における現時点での胃がん治療のあらましを、患者さんの疑問に答える形で述べてみます。

1.胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因は?

ピロリ菌や一部の消炎鎮痛剤などが原因で胃や十二指腸の粘膜が傷害されて起こります。過労、睡眠不足、不規則な生活、精神的ストレス、栄養不良、刺激のある食品、胃酸などの消化液、大量の煙草やアルコールなど心身のストレスが自律神経の働きを乱し、粘膜の血流が悪くなり粘膜の血流が傷つき潰瘍を作ります。

2.その治療法は?

プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーを中心にプロスタグランディン製剤や防御因子増強薬などが用いられます。

3.胃潰瘍・十二指腸潰瘍で手術をすることがあるのですか?

潰瘍は、基本的に薬で治します。潰瘍が深くなり穴があいて腹膜炎になった場合や、出血が内視鏡的治療で止められない場合は、手術が必要になります。また、狭窄と言って潰瘍を繰り返しているうちに瘢痕ができて、胃や十二指腸が狭くなり、食べたものが通りにくくなった場合には、手術を考えなくてはなりません。

4.胃潰瘍は胃がんになりますか?

なりません。しかし、早期の胃がんは、潰瘍を作ることがあり内視鏡で観察しても胃潰瘍と区別することが難しい場合が少なくありません。そのために、胃潰瘍と思っても生検といって組織の一部を鉗子でつまんで病理検査に提出し、これにより良性か悪性かの判断を致します。

5.腫瘍とはなんですか?

自分の身体のなかで協調性を失い、どんどん大きくなっていくのが腫瘍です。そして、腫瘍には良性と悪性があります。良性腫瘍は大きくなるだけで周囲を圧迫するなどの症状を除けば、自分の身体に害を与えません。そころが、悪性腫瘍は大きくなるだけではなく、身体のあちこちに飛んで増殖します。これを転移といいます。そして、やがて命を奪う恐い病気です。胃の悪性腫瘍の代表的なものが胃がんです。

6.なぜ胃がんになるのですか?

一部の例外を除き、ほとんどはピロリ菌が発がんと関わりがあり、ピロリ菌を持っていないひとが胃がんになることは極めて稀です。逆に、ピロリ菌を持っているひとがみんな胃がんになるのではないことは良く知っておいて下さい。胃がんになることを促進するのが多すぎる塩分、熱すぎたり焦げたりした食べ物、そして過剰の喫煙やアルコールであり、野菜や果物はがん細胞の元となる傷ついた粘膜を修復する作用があるとされ発がん防止の力になると言われています。

7. 良性と悪性とはどのような方法で区別するのですか?

CT、内視鏡やX線造影検査などの所見である程度判断できるのですが、生検と呼ぶ組織の一部を切り取り病理検査に提出する方法で病理医によって最終診断が下されます。

8.早期胃がんとはどんなものを言うのですか?

胃の壁は何層にも分かれており、進行するとともにがんは徐々に深い所にまで及んでいくのですが、がんが最表面の粘膜とその下の粘膜下層にとどまっている早い段階の胃がんを早期胃がんと定義しています。

9.早期胃がんの治療はどうするのですか?

内視鏡的治療が随分進歩して、がんが粘膜内にとどまっている早い段階では内視鏡的胃粘膜下層剥離術(ESD)という治療を行います。ESDで切除したあとに病理検査の結果、粘膜下層にまでがんが及んでいると診断されたり、がん組織のなかの静脈やリンパ管にがんが及んでいると診断された場合には手術が必要となります。また、術前の診断で明らかに粘膜下層にまでがんが及んでいると診断された場合には、リンパ節転移の可能性があるので最初から手術が必要です。

10.早期胃がんは治りますか?

ガイドラインに基づいた方法で治療を行えば高い確率で治ります。しかし、手術後にリンパ節転移があればこの確率はやや下がります。癌はやはり恐い病気であり、いつも100%ということは言えません。

11.手術にはどんな方法がありますか?

胃がんの手術は、胃のがんのある部(原発巣と言います)を切除することと、胃の周囲のリンパ節を切除(リンパ節郭清と言います)することからなります。胃の切除方法には、幽門側胃切除術や胃全摘術などの手術方法があります。リンパ節の切除(郭清)は、切除する範囲によって、D1, D2, D3と表します。進行胃がんの標準は、D2レベルのリンパ節の郭清であり、わが国が生み出し世界基準となった世に誇るべき技術です。早期胃がんには、それより少し小さな手術となるD1+リンパ節郭清が行われます。手術の内容を表すのに幽門側胃切除術、D2リンパ節郭清などと記載します。

12.機能温存手術とはなんですか?

胃がん手術では、胃の持っていた機能の多くが失われます。治ることが多い早期胃がんのうち、胃の中央部あたりにあるがんを対象に、胃と十二指腸の境目である幽門を残し、小腸への食べ物の急速な落下を防いだり、蠕動や撹拌といった機能を守ろうとしたりするのが幽門保存胃切除術(PPG)という術式です。また、胃の上の方にあるがんで、胃を全部切除せず上部1/3ほどを切除して胃の機能を残そうとするのが、噴門側胃切除術(PG)です。さらに、肝枝や腹腔枝といった胃の周囲の自律神経を残せば残胃炎や食道炎、手術後の胆石症の発症が少なく、術後の体重の回復に有利との報告があります。これを神経温存手術と言い、幽門保存胃切除術や噴門側胃切除術に併せて行うことが多いのです。これらを総称して、機能温存手術といいますが、当院ではこれらの機能温存手術を積極的に取り組み、患者さんにとって優しい手術をめざしています。

13.腹腔鏡手術やロボット手術は開腹手術に比べて優れているのですか?

誤りがちですが開腹手術、腹腔鏡手術とロボット手術は手術を行う方法の違いであり、手術の内容は全く同じです。現在でも、胃がん手術の標準は開腹手術です。腹腔鏡手術が急速な進歩により、開腹手術に劣らない内容になってきたので、ガイドラインでも早期がんと早い段階の進行がんに対して日常臨床のひとつの方法として認められています。しかし、進行がんに対しては安全性も効果も臨床試験で検証中です。当院では、ガイドラインに基づいて、基本的に早期胃がんに対しては腹腔鏡手術、進行癌に対しては開腹手術を行っています。

14.手術した後に抗がん剤投与をすると聞くのですが?

進行がんでリンパ節転移があった場合、術後に抗がん剤を投与(術後補助化学療法)すれば、再発率が10%下がるという臨床試験の結果を受けて、TS-1をはじめとする術後補助化学療法を行っています。

15.抗がん剤治療は副作用ばかり多くて効かないのではないですか?

かつてはそうでした。しかし、その後、抗がん剤を含む化学療法が急速に進歩し、新規抗がん剤と言われる有効な薬が多く登場し胃がん治療は一変しました。胃がん治療に、化学療法は欠かせないものになってきています。しかも、副作用が少ないのでほとんどを外来通院で行い、化学療法を行いながら働いているひとも多いのです。

16.術前化学療法とはなんですか?

今まで手術不能とされた胃がんも、化学療法剤を投与することにより手術が可能となったり胃や転移リンパ節からがんが消えたりと、これまで考えられなかった有効例が多くでています。まだ明確な結論は出ていないものの、有望な治療ではないかと思われます。

17.これまで手術できなかったものが手術できるようになったと聞きますが?

かつて、肝臓や背中に近い場所にある大動脈周囲リンパ節に転移があれば、手術は意味がないとされていました。しかし、肝臓への転移が2,3個程度であったり、大動脈周囲リンパ節の転移も限られたものであったりすれば手術(拡大手術)もひとつの選択肢とガイドラインに明記されました。化学療法を組み合わせることで、より可能性が出てきたと思われ、当院でも積極的に行っています。

18.コンバージョンテラピーという言葉を新聞で目にしたのですが

切除不能のがんが化学療法により小さくなり、手術ですべて取り切れると判断された場合に手術を行うという試みです。挑戦的な治療でありまだ有効性は確認されていませんが、限界を破る試みとして実践する施設が増えています。

19.胃がんは再発したらもう駄目なのでしょうか?

残念ながら胃がんは再発したら通常治るということはありません。生活の質(QOL)、すなわち価値ある生を保ちながらどれだけの期間、がんと共存できるかということになります。以前なら1年以上生存できることは稀でしたし、生存できたとしてもQOLはとても悪いものでした。ところが、今では前化学療法剤を上手に用いれば多くを外来で、しかも日常生活や勤務を続けながら1年、2年あるいは3年以上がんと共存しつつ生存されておられる方がとても増えてきました。
 がん性腹膜炎となり腹水でお腹が強く張っていてもかなりの確率で腹水もコントロールできるようになりました。その際に痛みなどがあった場合にはオピオイドや麻薬などを用いて痛みを取り除く緩和医療を行いながら治療を行っています。
 余談ですが抗がん剤治療は患者がプラス志向で前向きに取り組んでいるほど、あるいは主治医と患者の信頼関係と絆が強いほど奏効するような気がします。もちろん、患者のみならず主治医が化学療法に対して強い信頼を置いていることは絶対条件ですが・・・。

 

 

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